前回は、今やっているボランティア活動を交流の場とする「子どもサポート活動」を紹介しました。
保護者交流の場づくりのもう一つの施策は、直接的な保護者交流イベントの開催です。
先に述べたように、子どもが小学校に上がってしまうと、保護者どうしが顔を合わせ何かを一緒にやるという機会が減ります。なので、PTA主催イベントとして、保護者間の交流を仕掛けよう、と考えました。
企画の骨子は、昨年度に続き今年度も副会長を務める盟友の男性役員が考えてくれました。
その名も、「今日は帰さない作戦」。
例年6月下旬の土曜午前に行われる土曜授業参観の日を想定し、午前中学校に来て子ども達の授業風景を見たら、そのまま帰宅せずに学校に残って子ども達とご飯を食べてもらって、そして午後の交流イベントに参加してもらおう、というものです。
実は当校では毎年土曜授業参観の午後に、おやじの会主催で綱引き大会をしているのですが、この日は給食がないため、親も子も一度必ず帰宅しなければなりません。いったん帰宅してしまうと、子どもはまだしも親はなかなかもう一度学校に戻ろうとは思いません。だから、なんとかして帰宅しないで昼食を取れる方法を考えて、午後に魅力的な交流イベントを実施すれば、多くの保護者の参加が見込めるだろう、と考えました。
まず日付を6月下旬に設定し、どのような交流イベントにするかを考えました。ドッジボールや玉入れなどいろいろ考えましたが、みんながほとんど準備なく参加でき、かつ大人も子どもも大勢で同時に楽しめる競技を、ということで、例年通り綱引きを行うこととしました。綱引きならば、毎年運営しているおやじの会のメンバーが段取りを理解していますので、スムーズに運営できます。
どれだけの人を呼ぶか、というのも大きな課題です。当校は全部で750世帯、子どもだけでも1,000人近くいるにも関わらず、校庭も体育館も手狭で、もし雨が降ったことを考えると、全員を対象にしてのイベント開催は不可能でした。あまり対象者を限定したくないですが、物理的にスペースが足りません。
そこで今回は、当初の目的に立ち返ることにしました。つまり、「保護者の交流」であり、「交流することにより学校や地域を理解し、地域活動やPTA活動へのハードルを下げ、参加を促す」という目的です。ならば、低学年の保護者をターゲットにし、高学年の保護者は割り切ろう、と考えました。低学年の保護者ほど、同じ学年や地域で知り合いが少なく、交流を必要としていますので、そこに注力することにしました。それならば、親子合わせても500人くらいで収まるだろう、500人ならばなんとか開催できるのではないか、と見通しを立てました。
そして、保護者どうしの交流を図ってもらいやすくするために、学年別のチームとし、学年対抗で試合を組むことにしました。学年対抗で、子ども対子ども、父親対父親、母親対母親、の3試合をして、勝ち数の多いほうの学年を勝ちとします。もちろん先生方も参加して、4チームによるトーナメント制で優勝チームを決めます。
これで、日時・場所・イベント内容・実施形態が決まりました。
残るは、「今日は帰さない作戦」のキモ中のキモ、昼食の提供をどうするか、です。
保護者に弁当を作ってもらうのではなく、イベントとして食事を提供することで、気軽に参加してもらおうという方向で検討しました。最初は、学校に給食を出してもらおうと考えました。しかし土曜参観日は給食室が休みで、さすがに特別に給食を作ってもらうことはできませんでした。次に、PTA役員が昼食を作って出すことを考えました。しかし、参加人数分の500食を用意するのは準備等を考えると困難なのと、PTAの役員も保護者であり、授業参観の時間を犠牲にしてまで昼食作りをさせるわけにはいきません。
ここにきて、昼食提供は、手詰まりに思えました。
* * *
その頃、私はPTA会長として「施設開放委員会」という会合に参加していました。これは、小学校の校庭や体育館を使っている、少年野球や少年サッカーのチーム、各種スポーツクラブ、敬老会など20以上の地域団体が、施設の活用方法について話し合う会合です。
その会合の中で、各団体が、地域からの参加人数が少なくて困っているということを聞きました。例えばあるサッカークラブは、子どもが9人しかいない、とのことでした。大人向けのクラブもなかなか新人が入らないと嘆いていました。
そこであるアイデアがひらめきました。
施設開放委員会の各団体に、活動の宣伝をするチャンスを提供する代わりに、昼食の出店をしてもらえばいいのではないか? 多くの団体が参加することで昼食の数も確保できるし、人数集めに苦労している団体も広告宣伝できるし、なにより保護者が地域のことを理解できるチャンスになるし、一石三鳥じゃないか?
そこで、各団体にアンケートを取り、参加の意思があるかどうかを確認しました。しかし、アンケート実施段階ではまだ日程と主旨くらいしか提示できなかったから、20団体以上のうち、やってもいいと言ってくれたのが4団体くらいしかありませんでした。我ながらいいアイデアだと思っていただだけに、この結果にはがっかりしました。
しかし、PTAで企画内容を詰め、団体にやってもらいたいことをいっそう具体化していき、開催1ヶ月前に今度は企画概要書を配りました。この頃には、保護者にはおにぎりなどだけ準備してもらい、各団体は豚汁やフライドポテトなどのおかずを昼食補助として100食程度出してもらう、というところまで依頼事項が固まってきていました。
開催1ヶ月前の施設開放委員会の会合で再度参加団体を募ったところ、依頼事項が具体的だったのが功を奏し、結果的に7団体が、このイベントに協力してくれることになりました。PTA自身を加え、全部で8団体が参加することになりました。これなら各団体が100食程度の昼食補助をすれば、十分に500人の胃袋を満たせます。これで昼食提供のメドもつきました。
並行して、低学年の保護者向けに、イベント案内を出し、参加申込書を回収しました。名簿を作る必要はないのですが、実際に500人集まるのか、おおよその人数規模を押さえて、心の準備をしておく必要がありました。
開催1週間前を締め切りとして申込書を回収したところ、結果的に200人程度の参加人数であることがわかりました。当初目標の500人からすると半分以下ですが、むしろ雨天時の運営を考えると、200人なら全員体育館に入れることができ、管理できる規模だと少し安心しました。一方、各団体には、100食用意してと言ってあったので、数を50~70程度に下げてもらわないといけないため、連絡して頭を下げました。
そしてついに、イベント当日となりました。
晴れるようずっと祈っていたのですが、あいにくの雨。それほど強い降りではありませんでしたが、体育館での実施を決定しました。午前中は、朝からおやじの会メンバーと先生方で食事販売用のテントを張る一方、学校の家庭科室では各団体が集合し、昼食の準備を開始しました。現役の保護者が授業参観をしている間は、OBとなったおやじの会メンバーが、イベントに向けて必要なポスターなどの印刷作業を進めました。
正午からはついに昼食開始。綱引きに参加する親子は体育館で食事をしつつ、外のテントで各団体が出店開始です。あっというまに各店舗に行列が出来ました。開始1時間もたたないうちに、売り切れになってしまうお店も。晴れていれば、もっと場所を使って団体の紹介ができたのですが、あいにくの雨なので残念ながら十分な宣伝とまではいかなかったようです。それでも各団体では、テントにポスターを貼ったり、買ってくれた人にチラシを配るなどの宣伝活動をしていました。結果的に、全ての団体が用意した数を全て売り切ることができました。中にはあまりに売れるので途中で材料を買い足し、200食完売した団体もありました。
綱引き大会自体は、例年通りおやじの会の運営のもと、スムーズに進みました。本来勝ち負けの関係ないイベントですが、やはり試合となると盛り上がり、気温が数度上がるように感じました。子ども達や父親の試合はもちろんのこと、普段は応援する側に回っている母親どうしの試合は、「母は強し」を地で行く力強い戦いとなり、これまたいっそう盛り上がりました。また、例年のことですが、子ども達は先生チームと試合するとなると、とても喜びます。先生方は勝負よりも子ども達が楽しめることを考えてやっていただけるので、会場もますます盛り上がります。
一つの試合が終わると、勝利を分かち合い、お決まりの全員でのハイタッチ。これをすると、相手との心の距離がぐっと縮まる感じがします。綱引きを通じて、同学年の保護者の間で親近感がわき、学校の中での知り合いづくりに効果があったのではないでしょうか。
あとから反省すると、気配りが十分できていないところも多く、PTAのお母さん役員や先生にいろいろ手間をかけてしまったのですが、けが人もなく、盛況のうちに綱引き大会は終了しました。その後、夕方には先生方とおやじの会の希望者で、夜まで宴会で、お互いの苦労をねぎらい、普段はできないような砕けた話で夜中まで盛り上がりました。
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最近、先生と保護者だけでなく、地域コミュニティと連携して学校教育を考えようということで、PTAではなくPTCA(Parents Teacher Community Association)という言葉や実際の組織が生まれています。お互いの垣根を超えてより良い環境づくりのために協業する、というのはPTAの理想の一つだと考えています。もともと、どうにかして地域をPTA活動にもっと巻き込めないか、と考えていましたが、今回当校でも、昼食補助+広告宣伝という形で、PTAと地域の協業ができ双方がメリットを生み出せた、初めてのケースを作ることが出来ました。今後も年間行事の中で地域の力を借りれば既存の活動をもっと盛り上げられる機会がありますので、どんどん地域を巻き込んでいこうと思います。
当校PTAが、すぐにPTCAになることはないと思いますが、今回のケースが出発点になって、組織の形式にこだわらず、保護者が地域に関心をもって、地域も学校教育に関わる機会をつくって、良い関係を継続的に維持し発展できるようになればいいなと思います。